在宅で「急に熱が出た」とき
——夜間の発熱に家族が慌てないための判断の目安5つ
「夜中に急に熱が出たんです。救急車を呼ぶべきか、朝まで様子を見ていいのか、分からなくて——」 「熱が出るたびに不安で、こちらから電話していいのかも迷ってしまって」
——在宅で療養する患者さんのご家族から、こうした声をよく耳にします。とくに夏は、発熱の相談がぐっと増える季節です。
訪問診療クリニックを経営する院長先生へ。夜間の発熱は、ご家族がもっとも動揺し、判断に迷う場面のひとつです。そして、この「どうしていいか分からない」という不安こそが、ご家族を消耗させ、ときに不要な救急搬送や、逆に手遅れを招きます。
今日お伝えしたいのは、夜間の発熱に、ご家族が慌てず落ち着いて動けるように、判断の目安をあらかじめ仕組みとして渡しておく、という話です。なお、発熱時の最終的な判断は患者さんの状態によって異なります。実際の対応は、必ず主治医や訪問看護に相談することを前提にお読みください。
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なぜ、発熱で家族はこれほど慌てるのか
発熱そのものより、ご家族を苦しめるのは「基準がない」ことです。何度なら危ないのか、いつ連絡していいのか、様子を見てよいのか——その物差しを持たないまま夜を迎えると、小さな発熱でもパニックになり、逆に危険なサインを見逃すこともあります。
とくに夏は、判断がさらに難しくなります。感染症による発熱なのか、それとも熱中症や脱水による体温上昇なのか、見た目では分かりにくいからです。また、高齢の方は、重い状態でも熱があまり上がらないことがあり、「熱がないから大丈夫」とも言い切れません。だからこそ、熱の数字だけに頼らない見方を、平時のうちに家族と共有しておくことが大切になります。
夜間の発熱に、家族が落ち着いて動くための5つの備え
1. 熱の数字より、「ふだんと比べてどうか」を見てもらう
いちばん大切なのは、体温計の数字ではなく、いつもと比べた変化です。声をかけたときの反応はいつも通りか、水分は取れているか、呼吸は苦しそうでないか、おしっこは出ているか。当院では、ご家族に「熱の高さより、いつもと違うところがあるかを見てください」と伝えています。数字は一つの情報にすぎず、全体の様子こそが判断の軸になります。
2. 「どんなときに連絡するか」を、あらかじめ一緒に決めておく
夜中に迷わないために、連絡の目安を平時のうちに具体的に決めておきます。当院では、患者さんごとに主治医と相談しながら「この様子が見られたら、遠慮なく連絡してください」というラインを、ご家族と共有しています。目安は一人ひとり違います。だからこそ、一般論ではなく、その患者さんに合わせた連絡ラインを、事前に言葉にしておくことが安心につながります。
3. 夏は「感染か、熱中症・脱水か」の視点を持ってもらう
夏の発熱では、部屋の暑さや水分不足による体温上昇も疑う必要があります。当院では、熱が出たとき、まず室温とエアコンの状況、そして水分が取れているかを確認してもらうようお願いしています。涼しくして水分を取ったら落ち着くのか、それでも変わらないのか——この観察が、あとで主治医や訪問看護が判断するときの、貴重な手がかりになります。
4. 「すぐに連絡・受診すべき危険なサイン」を共有しておく
様子を見てよい発熱と、ためらってはいけない状態は分けて伝えます。意識がはっきりしない、呼びかけへの反応が鈍い、息が苦しそう、けいれんがある、ぐったりして水分もまったく取れない——こうしたサインがあるときは、迷わず連絡、または救急要請を、と平時に伝えておきます。ただし、これらはあくまで一般的な目安であり、個々の判断は主治医の指示に沿っていただくようお願いしています。
5. 「発熱時の対応メモ」を、家庭の見える場所に置いておく
いざというとき、人は冷静に手順を思い出せません。だから当院では、連絡先(クリニック・訪問看護の夜間窓口)、かかりつけの情報、服用中の薬、そして事前に決めた連絡の目安を一枚にまとめ、冷蔵庫など目につく場所に貼っておくことを勧めています。慌てる場面ほど、頼れるのは記憶ではなく、目の前にある一枚の紙です。
当院の実践から
以前、あるご家族が、夜中の発熱に驚いて救急車を呼び、搬送先で「涼しくして水分を取れば大丈夫」と帰されたことがありました。ご家族は疲れ果て、患者さんにも負担がかかりました。決してご家族が悪いのではありません。判断の物差しを、私たちが事前に渡せていなかったのです。
それ以来、当院では新しく在宅を始める患者さんには、必ず「発熱時の対応メモ」を一緒に作るようにしました。すると、夜間の慌てた電話が目に見えて減り、「あのメモがあるだけで安心して過ごせる」と言っていただけるようになりました。備えは、ご家族の不安を、そのまま安心に変えてくれます。
まとめ——夜の発熱の不安を、平時の備えで受け止める
夜間の発熱そのものは、止めることができません。けれど、その不安は、平時の備えでずいぶん和らげることができます。ふだんとの比較、連絡の目安、夏ならではの視点、危険なサイン、そして一枚のメモ——これらを事前に渡しておくだけで、ご家族は暗い夜の中でも、落ち着いて次の一歩を選べるようになります。
戦わない在宅医療とは、急変とただ力で戦うことではなく、慌てずに済む仕組みを平時に整えておくことでもあります。次に新しい患者さんを受けるとき、病状の説明とあわせて「熱が出たら、どうするか」を一度、ご家族と話し合ってみてください。その一手間が、夏の夜の安心を静かに支えます。
なお、本記事は一般的な考え方をお伝えするものです。発熱時の具体的な対応・受診の判断は、患者さんの状態に応じて主治医や訪問看護にご相談ください。
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「涼しくして水分を取れば大丈夫」と救急搬送先で帰されてしまったご家族のエピソード、本当に身につまされるものがありますね。ご家族の動揺を責めるのではなく、医療側が事前に判断の物差しを渡せていなかったという振り返りから「発熱時の対応メモ」を冷蔵庫に貼る仕組みへ繋げた実践は、夜間のパニックを未然に防ぐ極めて有効な手立てだと感じます。