「最後に診てから二日経っていたら、死亡診断書は書けないのでしょうか」「家族が救急車を呼んでしまって、警察が来ることになりました」——訪問診療クリニックを経営する院長先生から、こうした声をよく耳にします。
在宅で人を看取るということは、亡くなられたあとの手続きまで引き受けるということです。ですが、この部分だけ、あまり語られません。看取りの心構えや家族への関わりは共有されても、その日の実務は各院がそれぞれ手探りでやっている、というのが実情ではないでしょうか。
昨日は、看取りのあとにチームで振り返るデスカンファレンスについてお伝えしました。今日はその一つ手前、亡くなられた当日に何が起きるかです。5つに整理してお伝えします。慌てて対応するのでも、家族に判断を委ねるのでもない。起きることを先に知り、手順にしておく。それが、戦わない在宅医療の考え方です。
なお、この記事は制度の考え方を整理するためのものです。個別の事案でどう判断するかは、主治医の医学的な判断によります。迷う場面では、所轄の警察署や自治体の窓口に確認してください。また、法令の解釈や運用は変わることがありますので、最新の情報をご確認ください。
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いちばん多い誤解——「二十四時間ルール」
この領域で、最も広く信じられている誤解があります。「最後に診察してから二十四時間を過ぎていたら、死亡診断書は書けない。警察に届けなければならない」というものです。
これは誤りです。そして、この誤解のせいで、本来なら穏やかに見送れたはずの場面に警察が入る、ということが実際に起きています。
医師法の第二十条は、医師が自ら診察しないで診断書を交付してはならないと定めたうえで、ただし書きとして、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合には、改めて診察をしなくても死亡診断書を交付できる、という例外を置いています。
つまり、二十四時間というのは「改めて診察しなくてもよい」という例外の条件であって、二十四時間を過ぎたら死亡診断書が書けなくなる、という意味ではありません。
この点については、厚生労働省も繰り返し周知しています。医師が生前に診療していた傷病に関連する死亡であると判定できるのであれば、最終の診察から二十四時間を超えていても、改めて死後に診察を行ったうえで、死亡診断書を交付することができます。
在宅では、訪問の間隔が一週間や二週間空くことは普通にあります。もしこの誤解のとおりだとしたら、在宅での看取りはほとんど成り立ちません。
亡くなられた当日に備える5つの線引き
1. 「死亡診断書」と「死体検案書」の分かれ目を知る
同じ用紙の左上で、どちらかを丸で囲む形になっています。この違いは、診療していた傷病との関係で決まります。
・診療していた患者さんが、その診療にかかる傷病に関連して亡くなった——死亡診断書
・診療していない方が亡くなった、あるいは診療していた傷病とは関連しない死因である——死体検案書
在宅で長く関わってきた方が、経過のなかで亡くなられたのであれば、多くは前者にあたります。訪問の間隔が空いていたことは、それ自体で後者になる理由にはなりません。
判断するのは、その方を診てきた医師です。だからこそ、経過の記録が意味を持ちます。以前お伝えした記録の考え方のとおり、日々の記録が「この経過の延長にある死である」ことを説明する材料になります。
2. 警察に連絡すべき場面を、あらかじめ言葉にしておく
医師法の第二十一条は、医師が死体を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄の警察署へ届け出なければならないと定めています。
ここで大切なのは、「検案して異状があると認めたとき」という条件です。診療してきた患者さんが、その傷病の経過のなかで亡くなられた場合は、これにあたりません。
実務のうえで届出を検討する場面は、おおむね次のようなときです。
・外傷がある、転落や溺水、窒息、中毒など外因によるものが疑われる
・死因が、診療してきた傷病では説明がつかない
・そもそも診療していない方が亡くなっている
・死体を検案して、説明のつかない異状を認める
この線引きを、院内で言葉にしておくことをおすすめします。決まっていないと、迷った現場は安全側に倒れて警察へ連絡し、ご家族に大きな負担がかかります。判断がつかないときに誰へ相談するかも、あわせて決めておきます。
3. 家族に「救急車を呼ばない」を、先に伝えておく
実は、当日いちばん多い混乱の原因はここです。
呼吸が止まっているのに気づいた家族が、動転して一一九番に電話をしてしまう。救急隊が到着すれば蘇生の処置が始まり、状況によっては警察が臨場します。ご本人にとっても家族にとっても、望んでいたはずの最期とはかけ離れた時間になります。
ですから、これは事前に伝えておくことです。当院では、看取りの方針が定まった段階で、「息をしていないことに気づいたときは、まず当院にお電話ください」と繰り返しお伝えし、連絡先を書いた紙をお渡ししています。冷蔵庫に貼っていただくことが多いです。
そして、こう添えます。「慌てなくて大丈夫です。すぐに何かをしなければならない、ということはありません」。この一言があるかどうかで、その場の動き方が変わります。
以前お伝えした人生会議の対話は、この具体的な一枚に着地させてはじめて機能します。方針を共有していても、そのときにどこへ電話するかが決まっていなければ、家族は一一九番を押します。
4. 当日の流れと、それぞれの役割を決めておく
連絡を受けてからの流れを、院内で共有しておきます。当院では、おおむね次のように整理しています。
・家族から連絡が入る。まず、慌てなくてよいことを伝える
・誰が向かうかを決める。到着までのおおよその時間を家族に伝える
・医師が死亡の確認を行い、死亡診断書を作成する
・身体を整える。家族が望まれる場合は、一緒に行う
・葬儀社への連絡は、ご家族に行っていただく。事前に決まっていない場合は、その相談にも付き合う
夜間や休日に重なることも多いので、誰が向かうのか、そのとき他の訪問をどうするのかまで、先に決めておきます。以前お伝えしたオンコールの体制設計と、ここはつながっています。
なお、離島や山間部など、医師がすぐに向かえない状況を想定した情報通信機器を用いた死亡診断の枠組みも設けられていますが、研修を受けた看護師の関与や事前の同意など、要件が細かく定められています。自院で使えるかどうかは、あらかじめ確認しておくとよいと思います。
5. 見送ったあとの数分を、省略しない
最後は、手続きではない話です。
死亡診断書をお渡しして、身体を整えて、そこで役割は終わります。ですが、その場を出る前に数分だけ、ご家族と話す時間を取ります。
多くの家族が、この段階で「これでよかったのだろうか」と考えておられます。もっと入院させるべきだったのではないか、あのとき食べさせなかったのが悪かったのではないか。こうした問いを、口に出さないまま抱えます。
そこに、こちらから言葉を置いていきます。ご家族がしてこられたこと、ご本人が過ごされた時間について、具体的に。以前お伝えしたグリーフケアは、この数分から始まっています。書類を渡して立ち去ると、その後の何年かに影響が残ります。
まとめ——知らないことが、家族の最期を変えてしまう
亡くなられたあとの実務は、看取りの技術ほど語られません。ですが、ここを知らないままでいると、良い看取りができていたはずの場面が、最後の数時間で崩れます。
二十四時間の誤解をほどく、死亡診断書と死体検案書の分かれ目を知る、警察に連絡すべき場面を言葉にしておく、家族に救急車を呼ばないことを先に伝える、そして見送ったあとの数分を省略しない——この5つで、当日の景色は変わります。
とくにお伝えしたいのは、三つ目と四つ目です。制度の理解は院内の問題ですが、家族への事前の一言は、ご家族の記憶そのものを左右します。まずは今、看取りが近い方のお宅に、連絡先を書いた紙が貼ってあるかどうかを確かめてみてください。貼っていなければ、次の訪問で持っていく。それだけで、防げることがあります。
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といったとき、即戦力になってくれることでしょう。






「24時間を過ぎると死亡診断書が書けない」という根強い誤解を医師法の条文に基づいて整理し、警察への連絡が必要な基準を院内で明確にしておく重要性にすごく納得しました。制度の誤認によって穏やかな看取りの場が混乱してしまう事態を防ぐためにも、日々の経過記録を丁寧に残し、判断の線引きをあらかじめ共有しておく大切さがよく分かります。