在宅医療でAIをカルテに使う5つの場面
——診療情報提供書・初診前整理・記録の下書きをどこまで任せるか
「AIが便利らしいのは分かるが、カルテのどこに使えるのかが分からない」「患者さんの情報を入れて大丈夫なのか、そこが不安で踏み出せない」——訪問診療クリニックを経営する院長先生や、現場を支える訪問看護師から、こうした声をよく耳にします。
昨日は、在宅の記録が算定・監査・連携という三つの役目を同時に負っていること、そして書く前の準備にAIを使う余地が大きいことをお伝えしました。今日はその続きとして、実際にどの場面で使えるのかを、5つに整理してお伝えします。
先にお伝えしておきたいのは、AIに任せるのは「診療の判断」ではなく「文章の下ごしらえ」だということです。読む、まとめる、たたき台を作る——この部分だけでも、在宅医療にはかなりの時間が使われています。そこを軽くして、医療者は判断と患者さんとの時間に集中する。使う前に線を引いておけば、AIは頼れる道具になります。
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使い始める前に、必ず決めておくこと
場面の話に入る前に、これだけは先に整理しておく必要があります。患者さんの情報の扱いです。
無料のAIサービスに患者さんの氏名や住所、詳細な病歴をそのまま入力するのは避けるべきです。入力した内容がどう扱われるかはサービスによって異なり、学習に使われる場合もあります。医療機関で使うのであれば、事業者との契約や利用規約を確認したうえで、入力した情報が学習に使われない設定になっているか、どこにデータが保存されるかを確かめておく必要があります。
そのうえで、当院では次のような線引きをしています。個人が特定される情報は、可能な範囲で外してから使う。院として使ってよいサービスを決め、スタッフが個人の判断でばらばらに使わないようにする。そして最終的な文書は、必ず医療者が確認して仕上げる。以前お伝えしたとおり、AIを使う責任は使う側にあります。ここを曖昧にしたまま便利さだけを取りにいくと、後で困るのは自院です。
在宅のカルテ業務でAIが効く5つの場面
1. 初診前の「情報の下ごしらえ」
新しく受ける患者さんの情報は、たいてい紙とデータが入り混じった状態で届きます。紹介状、退院サマリー、看護サマリー、お薬手帳の内容——これらに目を通し、要点をつかむだけで相当な時間がかかります。
ここでAIに、経過・現在の治療方針・注意すべき点・内服の要点、といった観点で整理させると、初診前に頭に入れておくべきことが短時間でつかめます。当院では、初回訪問の前にこの下ごしらえをしておくことで、実際の訪問では書類を読み込む時間ではなく、ご本人やご家族と話す時間を確保できるようになりました。
以前お伝えしたように、在宅導入期の最初の2週間は信頼をつかむ大切な時期です。その入り口で、こちらが状況を把握したうえで訪問できているかどうかは、家族の安心感に直結します。
2. 他院からの診療情報提供書を「要約する」
病院から届く診療情報提供書は、数ページに及ぶこともあります。すべてが重要とは限らず、在宅で必要な情報を拾い出す作業に時間がかかります。
・これまでの経過を、時系列で短くまとめる
・在宅で継続すべき治療と、中止・変更された内容を分ける
・注意すべき症状や、再入院の目安が書かれていれば抜き出す
・本人・家族への説明内容が記載されていれば拾う
当院では、こうした観点で要約させたうえで、必ず原本にも目を通します。要約はあくまで読む順番を助けるものであって、原本を読まなくてよいということではありません。ただ、どこを重点的に読むべきかが分かった状態で読むと、同じ書類でも理解にかかる時間がまったく違います。
3. 他院へ送る診療情報提供書の「たたき台を作る」
入院が必要になったとき、専門科に紹介するとき——こちらから情報提供書を書く場面も少なくありません。そして、これがなかなか後回しになります。
ここでAIに、これまでの経過をもとにした下書きを作らせます。時系列の整理、現在の処方、在宅での状況——こうした事実の部分は、たたき台を作らせたほうが早い。そこに、医学的な判断や、伝えたい意図を医療者が書き加えて仕上げます。
ゼロから白紙に向かうのと、たたき台を直すのとでは、心理的な負担も所要時間もまったく違います。以前、入院を判断する場面についてお伝えしましたが、送るときに情報がきちんと伝わるかどうかは、その後の受け入れやすさにも関わります。書くのが億劫で内容が薄くなるくらいなら、下書きの力を借りたほうがよいと考えています。
4. 訪問直後の「口述を記録の形に整える」
訪問を終えた直後が、最も記憶が鮮明な瞬間です。ですが、その場で文章を打ち込むのは手間がかかります。
そこで、車に戻ったところで、その日の様子を口に出して録音し、あとで文章の形に整えます。話し言葉のままでは記録として使えませんが、そこを整えてもらえば、あとは医療者が手直しするだけで済みます。
昨日お伝えした「記録を持ち帰らない」を実現するうえで、この方法はかなり効きます。移動時間が、そのまま記録の時間に変わるからです。ただし、車内で音声を扱う際は、周囲に聞こえる環境ではないかにも気を配る必要があります。
5. 書いた記録を「点検する」
意外と見落とされがちですが、書いたものをチェックさせる使い方も有効です。
自院で算定している項目について、記録に必要な要素が書かれているか。他職種が読んで分かる書き方になっているか。断定的すぎる表現や、憶測が混じっていないか。こうした観点で見直させると、自分では気づきにくい抜けが見つかります。
昨日お伝えしたように、当院は「やっていたのに、書いていなかった」ことで加算の根拠が認められなかった経験があります。あのとき、書いた記録を点検する仕組みがあれば、防げたかもしれません。書く速度を上げるだけでなく、抜けを防ぐ側でも使えるのが、この道具の面白いところです。
当院で気をつけていること
便利になった一方で、気をつけていることもあります。
一つは、AIが作った文章が、事実と違うことがあるという点です。もっともらしい文章が出てくるので、そのまま信じてしまいそうになります。当院でも、要約に実際とは違う内容が混じっていたことがありました。幸い原本と照らして気づけましたが、そのまま使っていたらと思うと、ぞっとします。それ以来、要約はあくまで補助と割り切り、重要な判断に関わる部分は必ず原本を確認しています。
もう一つは、便利さに慣れると、自分で考える手間を惜しむようになることです。要約された情報だけで患者さんを理解した気になってしまう。ですが、書類のあいだに書かれていない部分——なぜこの方針になったのか、家族はどう受け止めているのか——を読み取るのは、やはり人の仕事です。道具に任せる部分と、自分で向き合う部分を、意識して分けておきたいと思っています。
まとめ——判断は人、下ごしらえは道具
在宅医療でAIが効くのは、初診前の情報整理、他院からの提供書の要約、こちらから送る提供書の下書き、訪問直後の口述の文章化、そして書いた記録の点検——この5つの場面です。どれも、診療そのものではなく、その周辺にある作業です。
そして、この周辺作業こそが、在宅医療者の時間を最も奪ってきた部分でもあります。ここを軽くできれば、患者さんと向き合う時間が増え、スタッフは定時で帰れます。記録の丁寧さを、時間がないからと削らずに済むようになります。
大切なのは、AIに何を任せて、何を任せないかを先に決めておくことです。読む・まとめる・下書きを作るは任せられます。ですが、患者さんの状態を判断すること、そして最終的に文書に責任を持つことは、医療者の仕事です。この線引きさえ守れば、道具は確実に味方になります。まずは、次に届いた診療情報提供書の要約から試してみてください。効果が最も分かりやすい場面です。
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AIに任せる範囲を「診療の判断」ではなく「文章の下ごしらえ」に留め、医療者が判断と対話に集中する環境を作るという方針にすごく納得しました。入力時のセキュリティや学習利用オフの確認など、始める前の線引きが明確だからこそ安心して実務に組み込めますね。