「看取りのあと、振り返りの場を作ったのですが、重い空気になってしまって」「スタッフが『あれでよかったのか』を抱えたまま、次の訪問に行っています」——訪問診療クリニックを経営する院長先生から、こうした声をよく耳にします。
在宅の看取りには、病棟にはない孤独があります。訪問は基本的に一人で行きますから、最期の場面に立ち会ったのも、家族の言葉を受け止めたのも、その一人です。誰かと一緒に見た記憶ではないので、後から確かめようがありません。
以前、看取りのあとに家族を支えるグリーフケアについてお伝えしました。今日はその裏側、支えた側をどう支えるかです。デスカンファレンスをどう設計するか、5つに整理してお伝えします。強くなれと求めるのでも、触れずにおくのでもない。話せる場を、形として用意しておく。それが、戦わない在宅医療の考え方です。
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振り返りの場が、逆効果になるとき
看取りの振り返りは、やればよいというものではありません。むしろ、設計を誤ると害になります。
最も多いのは、反省会になってしまう形です。「あのとき、なぜ気づかなかったのか」「もっと早く動けたのではないか」。こうした問いが並ぶ場は、担当した人にとって、責められる時間でしかありません。
そして一度そうなると、次からは何も出てこなくなります。困ったことも、迷ったことも、報告されなくなる。学ぶための場だったはずが、情報が上がらない組織を作ってしまいます。
もう一つは、目的があいまいなまま集まる形です。何のための時間なのかが決まっていないと、ただ重い沈黙が続きます。参加した人は「時間を取られた」としか感じません。
在宅で人が辞める理由を考えるとき、業務量や給与に目が向きがちです。ですが実際には、看取りを一人で抱えたまま消耗していく、という辞め方が確かにあります。以前お伝えしたスタッフのこころを守る仕組みは、この場面でこそ必要になります。
デスカンファレンスを設計する5つの型
1. 目的を「二つ」に分け、順番を決める
この時間には、性質の違う二つの目的があります。
・担当した人の気持ちを、少しでも軽くすること
・次に同じような場面が来たときのために、学ぶこと
大切なのは、この二つを混ぜないことと、順番を守ることです。先に気持ち、次に学び。この順にします。
逆にすると、必ず反省会になります。学びから入ると「何が足りなかったか」を探す時間になり、そこに気持ちの話が入り込む余地はなくなります。当院では、開始時に「今日はまず、それぞれが感じたことを話す時間です。改善の話は後半にします」と、はっきり宣言してから始めます。
2. 仕切る人を、評価する立場から外す
誰が進行するかで、出てくる言葉が変わります。
評価をする立場の人が仕切ると、参加者は無意識に「正しいこと」を言おうとします。とくに院長が進行役に立つと、その場は報告会に近づきます。
当院では、進行を持ち回りにしています。院長も参加しますが、進行役ではなく参加者の一人として座ります。そして、最初に発言しないようにしています。立場のある人が先に方向性を示すと、そのあとの発言がそれに沿ってしまうからです。
3. 「話さないこと」を、先に決めておく
場の安全は、ルールで作ります。当院では、始める前に次のことを共有します。
・個人の判断の是非は問わない
・「あのとき〜すべきだった」という言い方はしない
・ご家族やご本人を批判しない
・ここで話されたことは、外に持ち出さない
二つ目について補足します。改善したい点があるときは、「もし〜だったら、どうなっていたと思いますか」という形に置き換えます。同じことを扱っていても、受け取り方がまったく違います。前者は過去を裁く言葉で、後者は一緒に考える言葉です。
4. 事実から入り、気持ちを出し、最後に一つだけ持ち帰る
進め方には、型があったほうがうまくいきます。当院では、おおむねこの順で進めます。
・経過を時系列で確認する。記録を読み上げるだけでよい。ここでは評価をしない
・一人ずつ「印象に残っている場面」を話す。良かったと感じた場面から始める
・迷った場面、心に残っている場面を話す
・最後に「次に同じような方を担当したら、変えたいこと」を一人一つだけ挙げる
二つ目を、良かった場面から始めるのがこつです。人は、うまくいかなかったことのほうをよく覚えています。放っておくと、そこからしか話が出てきません。最初に良かった場面を言葉にしておくと、そのあとの「迷った話」が、否定ではなく振り返りとして扱えるようになります。
そして、持ち帰るのは一つだけにします。改善点をいくつも挙げると、結局どれも残りません。
時期についても一つ。亡くなった直後は避けたほうがよいと感じています。当院では、一週間から二週間ほど空けています。直後は感情が動いていて言葉にならず、逆に時間が経ちすぎると細部が薄れます。
5. 初めての看取りは、別枠で時間を取る
最後に、これが最も見落とされます。
在宅で初めて人の死に立ち会ったスタッフは、全体のカンファレンスでは話せません。周りが淡々と振り返っているように見えるほど、自分だけが動揺しているように感じるからです。
当院では、初めての看取りを経験した人には、別に時間を取ります。そして、こちらから先に言葉を渡します。「初めてのときは、しばらく思い出してしまう人が多いです」「泣いてもかまいません」。
感情が動くことは、専門性が足りないからではありません。むしろ、この仕事を続けていくうえで必要な感覚です。ただし、それを一人で抱えると続きません。だから、抱えなくてよいと最初に伝えます。
以前お伝えした独り立ちの設計と同じで、初めての場面をどう迎えさせるかは、教育の一部です。
当院が経験したこと
当院がデスカンファレンスを始めた頃、進行はいつも「今回の反省点は何でしょうか」から入っていました。学ぶための場なのだから当然だと考えていました。
あるとき、看取りを担当した看護師が、最初から最後まで一度も発言しませんでした。
後日、別の場面で本人からこう言われました。「あの場は、自分が責められている気がして、何も言えませんでした」。
驚きました。誰も彼女を責めてはいなかったからです。ですが、「反省点は」という問いから始めた時点で、担当者にとっては自分の判断を審査される場になっていたのだと思います。悪気なく、そう設計してしまっていました。
それ以来、当院では「印象に残っている場面」から始めるようにしています。そして必ず、良かったと感じたことを先に言葉にします。改善の話は、そのあとです。
変えてから気づいたことがあります。良かった場面を話しているうちに、担当者のほうから「でも、あそこは迷ったんです」と出てくるのです。こちらが問い詰めなくても、必要なことは本人が話します。安全な場であれば、人は自分から振り返ります。
まとめ——抱えさせないことが、続けさせること
在宅の看取りは、担当した人の中に残ります。良い看取りであっても残りますし、悔いのある看取りであればなおさらです。
目的を二つに分けて順番を決める、仕切る人を評価する立場から外す、話さないことを先に決める、事実から入って気持ちを出し一つだけ持ち帰る、そして初めての看取りには別枠を用意する——この5つで、振り返りの場は反省会になりません。
この仕事を長く続けられるかどうかは、体力よりも、抱えたものを降ろせる場があるかどうかで決まると感じています。まずは次の看取りのあと、一週間ほど置いてから三十分だけ、「印象に残っている場面」を話す時間を取ってみてください。改善点を出す必要はありません。話せる場があると分かるだけで、次の一件を担当する重さが変わります。
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カンファレンスの目的を「気持ちを軽くすること」と「次への学び」に分け、必ず気持ちの話から入るという順番の設計にすごく納得しました。人は放っておくとうまくいかなかったことばかりに目が向きがちだからこそ、まず良かった場面を言葉にして場の安全を整える進め方は、否定や審査にならない振り返りとしてとても理にかなっていますね。