褥瘡を「つくらない・深くしない」
——在宅で床ずれを防ぐ、家族と回す仕組み5つ
「2時間おきに体位を変えてくださいと言われても、とても無理で」「気づいたときには、もう赤くなっていました」——在宅で介護されているご家族から、こうした声をよく耳にします。
褥瘡、いわゆる床ずれは、在宅医療で最も普遍的な課題のひとつです。そして、病院とは決定的に違う点があります。病院では看護師が交代しながら24時間体制でケアにあたりますが、在宅で日々のケアを担うのは、多くの場合ご家族です。だから、病院と同じやり方をそのまま持ち込んでも、まず続きません。
大切なのは、家族の努力に頼るのをやめて、続く仕組みに置き換えることです。今日は、在宅で褥瘡をつくらない、できても深くしないための工夫を、5つに整理してお伝えします。なお、状態によって対応は異なるため、実際のケアは必ず主治医や訪問看護師と相談しながら進めてください。頑張らせるのではなく、頑張らなくても回るようにする。それが、戦わない在宅医療の考え方です。
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なぜ在宅の褥瘡対策は「指導」では回らないのか
褥瘡の予防でよく言われるのが、定期的な体位変換です。教科書的には正しく、病院ではそのように実施されます。
ですが在宅では、話が変わります。夜中に何度も起きて体の向きを変えるのは、介護するご家族にとって相当な負担です。もともと睡眠が細切れになっている方も多く、そこにさらに負荷をかければ、続かないどころか、介護そのものが破綻します。以前お伝えしたように、介護者が倒れてしまえば、その後の在宅は成り立ちません。
さらに、褥瘡は圧迫だけで起こるわけではありません。栄養状態、皮膚の湿り気、体を引きずったときの摩擦、そして本人の全身状態——さまざまな要因が絡みます。だからこそ、家族に「体位変換を頑張ってください」と伝えるだけでは、予防になりません。負担を減らしながら複数の要因に手を打つ、という設計が必要なのです。
在宅で褥瘡を防ぐ5つの仕組み
1. 人の努力より先に、道具で圧を逃がす
最初に手をつけるべきは、家族の頑張りではなく、体圧を分散する環境です。ここが整っているかどうかで、その後の負担がまったく変わります。
体圧分散マットレスをはじめとする福祉用具は、介護保険のレンタルで使える場合があります。当院では、褥瘡のリスクが高いと判断した段階で、できるだけ早くケアマネに相談し、寝具の見直しから入るようにしています。適したマットレスに変えるだけで、体位変換の必要な頻度そのものが下がることがあります。
どの用具が合うかは、体格や状態、本人が動けるかどうかによって変わります。ケアマネや福祉用具の専門職、訪問看護師と一緒に選ぶのが確実です。人が頑張る前に、道具に働いてもらう。この順番が大切です。
2. 「毎日見る場所」を絞って家族に伝える
褥瘡は、できてしまってからでは治すのに時間がかかります。ですが、皮膚が赤くなった段階で気づければ、悪化を防げる可能性が高まります。
・おしり(仙骨部)——最もできやすい場所
・かかと、くるぶし
・横向きで寝る方は、腰の横の出っ張った骨のあたり
・座って過ごす時間が長い方は、座骨のあたり
全身をくまなく観察してくださいと伝えても、家族は続けられません。当院では、その方の姿勢に応じて「特にここを見てください」と場所を絞って伝えるようにしています。おむつ交換や着替えのついでに、その部分だけを見る。赤みが消えない、いつもと違う——そう感じたらすぐ連絡してもらう。この一点に絞るだけで、早期発見の確率は大きく上がります。
3. 「食べること」を、褥瘡対策の一部として扱う
見落とされがちですが、栄養状態は皮膚の状態に深く関わります。食が細くなっている方は、それだけで褥瘡ができやすく、治りにくい状態にあります。
とくに夏を越えた時期は要注意です。先日お伝えしたように、暑さで食欲が落ちたまま戻らず、体重が減っている方がおられます。痩せて骨が出てくると、その部分に圧が集中します。つまり、食べられていないこと自体が、褥瘡のリスクを押し上げるのです。
当院では、褥瘡が気になる方については、体重と食事量も併せて確認するようにしています。必要に応じて、栄養補助食品の検討や、訪問歯科・訪問薬剤師との連携も考えます。皮膚だけを見ていても、褥瘡は防げません。
4. 「ずれ」と「湿り」を減らす、日常のひと工夫
圧迫と並んで褥瘡の要因になるのが、皮膚のずれと湿った状態です。ここは、日々のちょっとした工夫で減らせます。
ベッドの頭側を上げたとき、体が下にずり落ちると皮膚が引っ張られます。上げすぎない、上げた後に体の位置を整える、といった配慮で軽減できます。また、体を動かすときに引きずらないよう、スライディングシートなどの道具を使う方法もあります。これは家族の腰を守ることにもつながります。
湿りについては、おむつ内の蒸れ、汗、失禁による皮膚のふやけが問題になります。以前お伝えした排泄ケアの工夫とも重なりますが、こまめに整えることが、そのまま褥瘡の予防になります。清潔に、乾いた状態に保つ——地味ですが、確実に効きます。
5. 「家族を責めない」ことを、チームの前提にする
最後に、これが最も大切かもしれません。褥瘡ができてしまったとき、ご家族はほぼ例外なく、自分を責めます。
「私がちゃんと見ていなかったから」「もっと体位を変えていれば」——そう口にされることが少なくありません。ですが、栄養状態や全身状態によっては、どれだけ丁寧にケアをしていても褥瘡ができることがあります。それは介護の失敗ではありません。
当院では、褥瘡ができたときこそ、まず「ここまでよく看てこられましたね」と伝えるようにしています。責められると感じた家族は、次から報告してくれなくなります。そうなれば発見が遅れ、事態はさらに悪くなる。責めない姿勢は、優しさであると同時に、早期発見を守るための実務でもあるのです。
当院の失敗から学んだこと
偉そうにお伝えしていますが、当院にも苦い経験があります。
ある患者さんのご家族に、私たちは「2時間おきに体位を変えてください」と、教科書どおりの説明をしました。ご家族は真面目な方で、そのとおりにやろうとされました。ですが数週間後、その方は睡眠不足で憔悴しきっておられました。そして皮肉なことに、褥瘡は防げませんでした。栄養状態が落ちていたことに、私たちが気づいていなかったからです。
このとき痛感したのは、負担の大きい方法を指導することは、支援ではないということでした。家族を疲弊させたうえに結果も出ないのであれば、それは私たちの設計が間違っていたということです。それ以来、当院ではまず福祉用具で圧を逃がし、観察は場所を絞り、栄養も併せて見る、という形に変えました。家族の負担は減り、褥瘡も減りました。
まとめ——頑張らせるのではなく、頑張らなくても回るように
在宅の褥瘡対策で問われているのは、知識の量ではありません。その家庭で実際に続けられる形に落とし込めるかどうかです。
道具で圧を逃がす、見る場所を絞る、食べることも一緒に見る、ずれと湿りを減らす、そして家族を責めない——どれも特別な技術ではなく、負担を増やさずにできることばかりです。
褥瘡は、家族の愛情不足でできるものではありません。仕組みが足りていないだけです。だからこそ、私たち医療者の役割は、頑張り方を指導することではなく、頑張らなくても回る形を一緒につくることだと思います。まずは今関わっている方について、「この家庭で、本当に続けられる方法になっているか」を見直してみてください。続く方法こそが、いちばん効く方法です。
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「2時間おきの体位変換」といった指導でご家族を疲弊させるのではなく、体圧分散マットレスなどの道具を最優先で導入して負担を下げるアプローチにすごく納得しました。介護者の生活や睡眠を守ることが在宅ケアを継続する前提であり、頑張らせない環境設計こそが実用的ですね。