看多機・定期巡回と「組む」在宅医療
——24時間を一院で抱え込まず、地域でシェアする連携設計5つの実践
「夜間の電話が怖くて、心の底から休める日がない」「看取りが近い患者さんが増えると、もう一人では回しきれない」——訪問診療クリニックを経営する院長先生から、こうした声をよく耳にします。
在宅医療の質を上げようとすればするほど、24時間対応の重みは増していきます。重症の方、看取りが近い方を受ければ受けるほど、夜間や急変への備えが必要になる。けれど、それをすべて自院の医師と看護師だけで背負おうとすると、現場は静かに疲弊していきます。そして、抱え込んだ末に、いちばん大切な「日中の診療の質」まで落ちてしまうのです。
今日お伝えしたいのは、24時間を一院で抱え込むのをやめ、地域にある介護保険サービス——とりわけ看護小規模多機能型居宅介護(看多機)と、定期巡回・随時対応型訪問介護看護と「組む」ことで、夜間と生活の支えを地域でシェアする、という発想です。これは手を抜く話ではありません。むしろ、患者さんを地域全体で支えるための、機能分化の実践です。
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なぜ「24時間」を一院で抱え込んでしまうのか
在宅医療の24時間体制が院内に抱え込まれてしまう背景には、主に3つの理由があります。
1つ目は、「在宅は自院が最後まで看るもの」という思い込みです。責任感の強いクリニックほど、夜間の電話も、生活の困りごとも、すべて自分たちで受けようとします。その姿勢は尊いのですが、医療職が抱えなくてよい部分まで抱え込むと、本来の医療に割く力が削られてしまいます。
2つ目は、地域にどんな介護資源があるのかを、医療側が意外と知らないことです。看多機や定期巡回といったサービスは、24時間の生活支援や随時対応を担える心強い存在です。けれど「名前は聞いたことがあるが、何ができるのか正確には知らない」という院長先生は少なくありません。知らなければ、組みようがないのです。
3つ目は、連携の「つなぎ方」が分からないことです。サービスの存在は知っていても、どの患者さんを、どのタイミングで、どうつなげば役割分担ができるのか。その設計図がないまま、結局すべて自院で受けてしまう——これは仕組みがないということです。
看多機・定期巡回とは何か——24時間をシェアできる相手
連携の話に入る前に、2つのサービスを簡単に整理しておきます。
看護小規模多機能型居宅介護、いわゆる看多機は、通い・泊まり・訪問介護・訪問看護を、一つの事業所が一体的に提供する地域密着型サービスです。状態が変わっても、同じ顔ぶれが柔軟に支えてくれるため、退院直後の不安定な時期や、看取りが近い時期に大きな力を発揮します。
定期巡回・随時対応型訪問介護看護は、決まった時間の巡回に加え、24時間いつでもコールを受けて駆けつける随時対応を備えたサービスです。独居の方や、夜間の急な不安に応える生活の見守りとして頼りになります。
どちらも、医療ではなく介護保険のサービスです。だからこそ、訪問診療が医療を担い、これらが生活と見守りを担うという、きれいな機能分化が成り立ちます。24時間を「医療職だけ」で抱える必要はないのです。
地域でシェアするための5つの連携設計
当院が試行錯誤の末に整えた、看多機・定期巡回との連携の型を5つに整理します。
1. まず地域の看多機・定期巡回事業所を「地図」にする
連携の第一歩は、自院の診療圏にどんな事業所があるかを把握することです。看多機と定期巡回の事業所名、対応エリア、空き状況、得意なケース——これを一覧にして、紹介できる相手を見える化します。地図がなければ、いざ夜間対応をシェアしたいときに、つなぐ先が思い浮かびません。地域包括支援センターやケアマネジャーに聞けば、情報は集まります。
2. 「どの患者さんを組むか」の基準を決める
すべての患者さんに同じ体制は要りません。独居で夜間の不安が強い方、看取りが近く家族の負担が重い方、退院直後で状態が不安定な方——こうした「24時間の支えが特に要る層」を、連携サービスと組む対象として明確にします。基準があれば、ケアマネジャーとの相談もスムーズになり、過不足のない体制が組めます。
3. 医療と介護の「役割の境界線」を最初にすり合わせる
組む相手が決まったら、何を訪問診療が担い、何を看多機・定期巡回が担うのかを、最初に文書で共有します。たとえば、医療的な判断と処方は自院、夜間の安否確認と一次対応は連携サービス、急変時はどの段階で医師に連絡するか——この境界線を曖昧にしたまま始めると、「お互いが相手に任せたつもり」の空白が生まれます。境界線こそ、仕組みで防ぐべき要です。
4. 急変・看取り時の「連絡ルート」を一枚にする
24時間をシェアするうえで最も大事なのが、いざというときの連絡ルートです。夜間に何かあったとき、連携サービスはまず誰に、どの手段で連絡するか。医師の指示が必要な場面はどこか。これを一枚の紙にして、双方の手元に置きます。ルートが決まっているだけで、夜間の現場は迷わず動け、医師が呼ばれる回数そのものも適正化されます。
5. 月に一度、顔を合わせて「振り返る」場を持つ
連携は、つないで終わりではありません。月に一度でも、看多機・定期巡回の担当者と短く振り返る場を持ちます。うまくいったケース、ヒヤリとした場面、境界線の見直し——これを重ねるほど、連携の精度は上がります。顔の見える関係があるからこそ、夜間の一本の電話にも安心して任せられるのです。
自院での気づき
当院はもともとグループ法人内に看多機と定期巡回があります。医療的依存度の高い方は入院、そうでなく短期的な医療依存の方は看多機という棲み分けができ、さらに定期巡回でがん末期の方でも地域で支えられる体制を整えてきました。
ただどちらも地域密着型サービスです。特定の市町村を超えたサービス提供ができないため、ある地域では豊富に資源があるが、そうでない地域にはサービス提供できない、といった限界点も日々感じています。
これらをカバーするために医療資源も併用することで、包括した医療・介護提供が可能になるのです。
まとめ——抱え込まないことが、最後まで支え続ける力になる
24時間を一院で抱え込んでいる限り、現場はいつか消耗し、本当に医療が必要な場面に割く力まで失われていきます。患者さんを最後まで支えたいなら、むしろ抱え込まないことです。
地域の看多機・定期巡回を地図にする、組む患者さんの基準を決める、役割の境界線をすり合わせる、連絡ルートを一枚にする、月に一度振り返る——この5つを整えるだけで、夜間と生活の支えを地域でシェアでき、自院は医療に集中できます。
今日からできる最初の一歩は、自院の診療圏に看多機や定期巡回の事業所がいくつあるかを、ケアマネジャーに尋ねてみることです。組める相手を知ることが、抱え込みから抜け出す出発点になります。
戦わない在宅医療——それは、すべてを一院で背負うことではなく、地域の仲間と役割を分け合いながら、不安を抱えた人を24時間、誰かが必ず受け止める網を、地域に張りめぐらせておくことでもあります。
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在宅医療の24時間体制を一院で抱え込まず、地域の看多機や定期巡回との「機能分化」を図ることで、持続可能な医療経営を実現する戦略的な視座に深く納得させられました。
責任感からすべてを院内に抱え込み、結果としてスタッフが疲弊して最も大切な日中の診療の質が落ちてしまう構造は、人手不足の時代において極めてリアルな課題です。医療職が本来のコア業務に集中し、生活の守りを介護サービスへとシームレスに委ねる役割分担は、これからの地域医療を守る上で不可欠な生存戦略であると感じます。