「お金が払えない」在宅患者を、どう支えるか
生活保護・医療扶助・費用の相談5つ
「訪問の回数を減らしてもらえないか、と遠慮がちに言われた」「請求書が溜まっているのに、ご本人は何も言わない」——訪問診療クリニックを経営する院長先生や、現場を支える訪問看護師から、こうした声をよく耳にします。
在宅医療を続けていると、必ずお金の問題に行き当たります。年金だけで暮らしている方、医療費と介護費が生活を圧迫している方、すでに支払いが滞っている方——その事情はさまざまですが、共通しているのは、本人からはなかなか言い出せないということです。そして気づいたときには、必要な医療から自ら遠ざかろうとしている、ということが起こります。
「お金がないから、訪問診療は無理」と諦めさせないために、私たちにできることがあります。同時に、クリニックも事業として続けなければなりません。今日は、支払いに困る患者さんを支えるための考え方と実務を、5つに整理してお伝えします。なお、制度の内容や運用は改正や自治体によって差があるため、実際に動く際は必ず最新の情報と地域の窓口をご確認ください。追い返さず、しかし抱え込まない。それが、戦わない在宅医療の考え方です。
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なぜ「お金の問題」は見えにくいのか
経済的な困りごとが表に出にくいのには、はっきりした理由があります。
一つは、本人が言い出しにくいことです。お金の話は誰にとっても切り出しづらく、ましてや「診てもらっている立場」で言うのは、なおさら勇気がいります。その結果、患者さんは何も言わないまま、訪問の頻度を減らしてほしいと遠回しに伝えてきたり、薬を自己判断で減らしたりします。医療から遠ざかる行動が、実はお金の問題のサインだった、ということは珍しくありません。
もう一つは、私たち医療者の側も聞きにくいことです。お金の話を持ち出すのは失礼ではないか、経営のことを気にしていると思われないか——そうした遠慮から、踏み込めずにいることがあります。ですが、経済的な事情は、その人が医療を受け続けられるかどうかを左右する、立派な医学的リスク要因です。生活を診るのが在宅医療である以上、お金の話も、暮らしの一部として扱うべきなのです。
支払いに困る患者さんを支える5つの実務
1. 「言い出せない」を前提に、こちらから聞く
まず変えたいのは、患者さんから言い出してくるのを待つ姿勢です。言い出せないことを前提に、こちらから穏やかに尋ねる形をつくります。
「費用のことで、ご負担に感じていることはありませんか」——導入時や、訪問回数が増えるタイミングで、こう一言添えるだけで十分です。当院では、この確認を医療的な問診と同じように、当たり前の項目として組み込むようにしました。あらためて聞かれれば、「実は……」と話してくださる方は少なくありません。責めるためではなく、支えるために聞く。この姿勢が伝われば、お金の話はタブーではなくなります。
2. 「今すぐ使えるかもしれない仕組み」を確認する
困っていると分かったら、まず既存の仕組みで負担を軽くできないかを確認します。実は使えるはずの制度を知らないまま、負担を抱えている方が少なくありません。
・高額療養費制度や、窓口負担を抑えるための限度額に関する手続きが使えないか
・医療と介護の自己負担を合算して負担を抑える仕組みの対象にならないか
・自治体独自の助成や減免制度がないか(内容は地域差が大きい)
当院では、費用の相談を受けたら、まず事務スタッフと一緒に、使える手続きが残っていないかを一つずつ確認します。制度の要件や手続きは改正されることがあり、マイナ保険証の利用状況によって扱いが変わる場合もあるため、必ず最新の取り扱いを確認するようにしています。分からないときは、保険者や自治体の窓口、あるいは病院の医療ソーシャルワーカーに尋ねるのが確実です。
3. 「生活保護・医療扶助」につなぐ道を、知っておく
生活そのものが立ちゆかない状況であれば、生活保護という選択肢があります。ここで医療者に必要なのは、詳しい制度知識よりも、「相談先を知っていて、つなげること」です。
生活保護の相談窓口は、お住まいの自治体の福祉事務所です。医療については医療扶助という形で支援される仕組みがあり、訪問診療も対象になり得ますが、そのためには医療機関側があらかじめ指定を受けている必要があります。当院でも、いざというときに受けられないという事態を避けるため、必要な手続きは事前に確認しておくようにしました。詳しい要件や手続きは自治体によって案内が異なるため、地域の窓口に確認するのが確実です。「生活保護」という言葉に本人が抵抗を示すことも多いので、ケアマネや地域包括と一緒に、ゆっくり話を進めることが大切です。
4. 「お金の話」を、生活全体の支援につなげる
経済的な困りごとは、たいてい単独では現れません。孤立、住まいの不安定さ、家族関係の問題——生活基盤全体の課題と結びついていることがほとんどです。だからこそ、費用の相談を、生活全体を見直す入り口として扱います。
当院では、支払いに困っている方が見えたとき、ケアマネや地域包括支援センター、社会福祉協議会といった窓口と情報を共有します。医療機関だけで解決しようとしても、できることは限られます。以前お伝えした、身寄りのない方の支援や多職種連携の全体設計と、発想はまったく同じです。医療から見えた小さなサインを、生活を支える専門職につなぐ。それが、医療者にできる最も現実的な支援です。
5. 未収金は「責めず、仕組みで」向き合う
最後に、経営の現実にも触れておきます。支払いが滞ったとき、その対応を担当者個人の判断や気まずさに任せていると、双方にとって不幸な結果になります。
大切なのは、早い段階で相談の場を持つことです。滞納が大きくなってからでは、本人はますます言い出せなくなります。当院では、支払いが滞り始めた段階で、責める姿勢ではなく「何かお困りごとがありませんか」という形で声をかけ、必要なら分割の相談や、使える制度の確認につなげます。同時に、いつ・誰が・どう声をかけるかという院内のルールを決めておきます。ここを仕組みにしておけば、スタッフが気まずさを個人で抱えずに済みますし、クリニックの経営も守れます。支えることと、事業として続けることは、両立できるのです。
当院の失敗から学んだこと
偉そうにお伝えしていますが、当院にも苦い経験があります。
ある患者さんが、あるとき「訪問は月に一度でいいです」とおっしゃいました。私たちは、ご本人の希望を尊重したつもりで、そのまま回数を減らしました。ところが数か月後、状態が悪化して入院となったとき、ご家族から「本当は費用が心配で、言い出せなかったようです」と聞かされたのです。あのとき一言、費用のことを尋ねていれば——と悔やみました。
このとき痛感したのは、「回数を減らしてほしい」という言葉の裏に、お金の問題が隠れていることがある、ということでした。それ以来、当院では訪問の頻度や内容を変えたいという申し出があったとき、必ず「費用のご負担は大丈夫ですか」と確認するようにしています。聞いてみれば、使える手続きが残っていたり、相談先につなげたりできることが、実は多いのです。
まとめ——お金の相談は、医療を続けるための医療行為
経済的な理由で必要な医療から遠ざかってしまうことは、その人の健康と暮らしに直結します。だとすれば、お金の相談に乗ることは、経営の話である前に、その人が医療を受け続けられるようにするための、立派な支援です。
言い出せないことを前提にこちらから聞く、使える仕組みを確認する、生活保護の相談先につなぐ、生活全体の支援へ広げる、未収金は責めずに仕組みで向き合う——どれも、クリニックが一人で背負うものではありません。制度と地域の窓口を知り、つなぐことが、最も確実な支援になります。
お金がないからと医療を諦める人を、地域から出さないこと。それは、他院と競うことではなく、地域で最も支えにくい人に手を伸ばすという、静かな仕事です。そして、それを続けるためには、クリニック自身が健全に回っていることも欠かせません。支えることと、続けること。その両立を仕組みで実現するのが、戦わない在宅医療の形だと思います。まずは次に「訪問を減らしたい」と言われたとき、その理由を一度、費用の面からも尋ねてみてください。
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・新患が止まった…どうすればいい?
・訪問件数は伸びているのに、収益は増えない…なぜ?
・業績悪化した時、まず見るべきはどこ?
といったとき、即戦力になってくれることでしょう。






「訪問の回数を減らしてほしい」という申し出の裏に、実は経済的な負担感や言い出せない焦りが隠れているという指摘に大きく頷きました。お金の話を特別な話題にせず、医療的な問診と同じように当たり前の項目としてこちらから確認していく姿勢の重要性を強く感じます。