訪問診療は「移動時間」で決まる
——1日の訪問件数を増やす、ルートと段取りの設計5つ
「一日中走り回っているのに、思ったほど回れていない」「診療より運転している時間のほうが長い気がする」——訪問診療クリニックを経営する院長先生から、こうした声をよく耳にします。
在宅医療の一日は、診療の時間と、それ以外の時間でできています。そして多くのクリニックで、後者——移動、駐車場探し、記録、次の準備——のほうが、実は長くなっています。診療の質を落とさずに件数を増やしたいと考えたとき、削れるのはこちら側です。
ただし、これは「詰め込んで数を稼ぐ」話ではありません。無理に詰めれば、一件あたりが雑になり、スタッフも疲弊します。目指すのは、同じ労力でより多く回れる設計です。今日は、移動と段取りを見直すための考え方を、5つに整理してお伝えします。走る距離を減らして、診る時間を増やす。それが、戦わない在宅医療の日々の設計です。
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なぜ「移動」がボトルネックになるのか
訪問診療の生産性を下げている要因は、案外はっきりしています。
一つは、患者さんが地理的に散らばっていることです。同じ日に、街の端から端まで移動していれば、それだけで一日が終わります。もう一つは、細切れの待ち時間です。駐車場が見つからない、エレベーターを待つ、次の家の準備ができていない——一件あたり数分でも、一日十数件なら大きな時間になります。
そして見落とされがちなのが、記録の持ち帰りです。日中に書ききれなかった記録を夜にまとめて処理すれば、その分だけ労働時間が延びます。診療時間そのものは削れませんが、これら周辺の時間には、確実に改善の余地があります。
移動と段取りを整える5つの設計
1. 「曜日ごとに地区を決める」——散らばりを構造的に減らす
最も効果が大きいのが、曜日と地区を紐づけることです。月曜は北エリア、火曜は南エリア、というように決めてしまいます。
こうすると、一日の移動距離が根本的に短くなります。新規の患者さんを受けるときも、「その地区の曜日」に組み込めばよいので、調整が簡単になります。当院でも、この地区割りを導入してから、同じ人数でも一日に回れる件数が変わりました。
ただし、患者さんの状態によっては、決めた曜日に関係なく訪問が必要になります。地区割りはあくまで基本形であって、例外を認めない仕組みにすると、かえって窮屈になります。土台として決めておき、必要に応じて崩す。この使い方が現実的です。
2. 「施設」と「居宅」の組み合わせを考える
同じ訪問でも、施設と居宅では時間の使い方がまったく違います。ここを意識して組むと、一日の効率が変わります。
施設は、一か所で複数の方を診られるため、移動あたりの効率が高くなります。一方、居宅は一件ごとに移動が発生し、駐車場所の確保にも時間がかかります。当院では、午前に施設をまとめ、午後に居宅を回る、といった組み方を基本にしています。
ただし、施設ばかりに偏るのは、経営としても地域での立ち位置としても危うい面があります。以前お伝えしたように、施設在宅は制度改定の影響を受けやすい領域です。効率だけで判断せず、居宅とのバランスを意識しておきたいところです。
3. 「訪問順」を、地図だけで決めない
ルートを組むとき、地図上の距離だけで並べると、うまくいかないことがあります。実際に効くのは、時間帯の要因です。
・朝夕の渋滞する道を、混雑時間帯に通らない順にする
・駐車が難しい場所は、比較的空いている時間帯に回す
・デイサービスに行く方は、その前後を外す
・家族の立ち会いが必要な方は、家族がいる時間帯に合わせる
当院では、こうした条件を訪問順に反映しています。とくに家族の立ち会いは重要で、いない時間に訪問すると、状態の共有ができず、後から電話でやり取りすることになります。結果的に時間を失うので、最初から合わせたほうが早いのです。
4. 「記録を持ち帰らない」仕組みをつくる
移動時間そのものを、記録の時間に変えられれば、一日の終わりが大きく変わります。
当院では、訪問先または車内で記録を完了させることを基本にしています。運転を担当するスタッフがいれば、医師や看護師は移動中に記録を書けます。訪問と訪問のあいだの数分でも、その場で入力してしまえば、夜に持ち越さずに済みます。
以前お伝えした医療DXの話とも重なりますが、ここで効くのは高機能なシステムそのものより、「その場で終わらせる」という運用の徹底です。テンプレートを整えて入力の手数を減らすなど、地味な改善の積み重ねが、労働時間に直結します。
5. 「詰めすぎない余白」を、意図的に残す
最後に、これが最も大切かもしれません。効率を追求した先で、予定を限界まで詰めてしまうと、その日は必ず破綻します。
在宅医療では、想定外のことが起きます。状態が悪く予定より時間がかかる、急な往診依頼が入る、渋滞に巻き込まれる。予定が満杯だと、これらを吸収できず、後ろのすべてが遅れます。患者さんを待たせ、スタッフは焦り、記録は後回しになる。
当院では、一日のどこかに意図的に空き時間を確保しています。何も起きなければ、その時間で記録を片づけたり、少し早く終わったりします。余白は無駄ではなく、その日を守るための備えです。以前お伝えした急変対応にしても、動ける余力があってはじめて成り立ちます。
当院の失敗から学んだこと
偉そうにお伝えしていますが、当院にも苦い経験があります。
患者さんが増えてきた時期、私たちは訪問予定を限界まで詰めていました。理屈のうえでは回れるはずでしたが、実際には、一件でも予定が長引くとその後がすべて崩れました。最後の患者さんのお宅に着くのが、約束より一時間以上遅れることもありました。スタッフは常に急かされ、記録は毎晩持ち帰りになっていました。
このとき気づいたのは、詰め込みによる件数増は、見せかけだったということです。遅刻と残業と疲弊を生んだ結果、翌日以降のパフォーマンスも落ちていました。曜日ごとの地区割りを整え、余白を確保するようにしてから、一日の件数はむしろ安定して増えました。走り方を変えるほうが、走る量を増やすより効いたのです。
まとめ——走る距離を減らして、診る時間を増やす
訪問診療の一日を左右するのは、診療の速さではありません。移動と段取りをどう設計するかです。そしてここは、努力ではなく設計で変えられる部分です。
曜日ごとに地区を決める、施設と居宅を組み合わせる、訪問順を時間帯で考える、記録を持ち帰らない、余白を意図的に残す——どれも、明日から試せることばかりです。
効率化というと、スタッフを急かす話に聞こえるかもしれません。ですが本当の目的は逆です。無駄な移動と持ち帰り仕事を減らせば、患者さんと向き合う時間が増え、スタッフは定時で帰れます。まずは直近一週間の訪問記録を見返して、移動にどれだけ時間を使っているかを確認してみてください。数字が見えると、どこを変えるべきかが自然に見えてきます。
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「診療の速さではなく移動や周辺の段取りを設計し直す」という視点にすごく納得しました。曜日ごとにエリアを分けたり、渋滞や家族の立ち会い時間に合わせたルートを組んだりすることで、無駄な移動や二度手間を大きく減らせる点が非常に合理的です。