「〇〇さんが、息をしていないんです。どうしたらいいですか」
夜中の2時。施設の夜勤の介護職員から、こうした電話が入ることがあります。
昨日は、施設に「看取りはできません」と言われたときの受け方をお伝えしました。夜間の連絡先を一本にする。亡くなるまでの経過を先に説明しておく。救急車を呼ばない取り決めを三者で共有する。
今日は、その先の話です。看取りを引き受けた施設で、実際にその夜が来たとき、電話を受けた側は何をするのか。
この電話の数分で、施設が「次も看取れる」と思えるかどうかが決まります。
今日は、この場面を5つに整理してお伝えします。
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電話の向こうで、何が起きているのか
まず、電話をかけてきた側の状況を想像してみてください。
夜勤は一人か二人です。看護職員はいません。見回りに行ったら、呼吸が止まっていた。亡くなる方を見るのは初めてかもしれません。
頭の中では、いくつもの迷いが同時に回っています。
・本当に亡くなっているのか。まだ何かできるのではないか
・救急車を呼ばなくていいのか
・自分の見回りが遅かったのではないか
・ご家族に、いま電話すべきなのか
事前に説明を受けていても、その場になると頭から抜けます。それが普通です。
ですから、電話を受けた側が落ち着いて、順番に聞いていく必要があります。説明ではなく、質問で導きます。
受け方の5つ
1. まず「予定していた経過か」を確かめる
最初に確かめるのは、この方の最期が、予想していた経過の中にあるかどうかです。
看取りの方針が決まっていて、ここ数日、食事や水分がとれなくなり、呼吸が変わってきていた。その経過の先で呼吸が止まったのであれば、救急車を呼ぶ場面ではありません。
一方で、転倒していた、食事中に詰まらせた、といった予想していない出来事がある場合は、話が変わります。取り決めがあっても、その経過が本当に病気によるものか、医師の判断が必要になります。
ですから、最初にこう聞きます。
「倒れていたり、何かを詰まらせたりした様子はありませんか」
ここで予定どおりの経過だと分かれば、職員にもそう伝えます。
「予定していた経過です。救急車は呼ばなくて大丈夫です」
この一言で、電話の向こうの緊張が大きく下がります。
2. 最後に呼吸を確認した時刻と、気づいた時刻を聞く
次に、時刻を聞きます。
最後に呼吸をしているのを確認したのは何時か。呼吸が止まっているのに気づいたのは何時か。
死亡時刻は医師が判断しますが、職員の記録はその判断の材料になります。そして、この二つの時刻を書き留めてもらうことには、もうひとつ意味があります。
職員が「自分の見回りが遅かったのではないか」と責めることを、事実で和らげられるのです。見回りの間隔が決められたとおりであれば、それは誰のせいでもありません。
3. 医師が着くまでに、してもらうことと、しなくていいことを伝える
医師が着くまでの時間を、職員はいちばん長く感じます。何をしていればいいか分からないからです。
ですから、具体的に伝えます。
・医師が着く予定の時刻
・それまでは、体を大きく動かさず、そのままにしておいてよいこと
・酸素などの医療機器を外すかどうかは、医師が着いてから判断すること
・部屋の明かりを少し落として、そばにいてもらって構わないこと
「何もしなくていい」と言われると、かえって不安になります。「そばにいてください」のほうが、職員は落ち着いて待てます。
なお、ご家族と事前に取り決めていて、夜間は到着を急がず朝に伺う、という運用をしている医療機関もあります。その場合も、何時ごろに誰が行くのかを、この電話ではっきり伝えます。
4. ご家族への連絡を、誰がするか決める
ご家族への連絡は、事前に誰がするか決めておくのが理想です。ですが、決めてあっても、その場で確認します。
「ご家族には、施設から連絡していただけますか。それとも、こちらからしましょうか」
ここが曖昧だと、施設も医療機関も連絡していなかった、あるいは両方から電話が入って混乱した、ということが起きます。
施設から連絡する場合は、伝える内容も添えます。
「医師が何時ごろに伺う予定です、と伝えてください」
ご家族は、医師が着く前に駆けつけたいかもしれません。到着の見通しが分かれば、自分で決められます。
5. 電話を切る前に、職員の様子を聞く
最後に、忘れられがちなことです。
電話を切る前に、職員に一言かけます。
「いま、大丈夫ですか。一人で心細かったですよね」
夜勤の職員は、このあとも朝まで、ほかの入居者を見続けなければなりません。亡くなった方の部屋の前を通りながら、です。
そして、翌日以降に、あの夜のことを一緒に振り返ります。昨日お伝えしたとおり、一度経験した施設は、次から「できない」とは言わなくなります。ただしそれは、その一度が「怖かった」ではなく「支えてもらえた」で終わった場合です。
その分かれ目は、この電話にあります。
まとめ
夜中に施設から「息をしていません」と電話が来たとき、できることは5つあります。
まず予定していた経過かを確かめる。最後に呼吸を確認した時刻と、気づいた時刻を聞く。医師が着くまでに、してもらうことと、しなくていいことを伝える。ご家族への連絡を誰がするか決める。そして、電話を切る前に職員の様子を聞く。
この5つは、電話を受ける人の経験に頼らず、一枚の紙にまとめておけます。夜間の電話を受ける当番が誰であっても、同じ順番で聞ける。それが、看取りを仕組みで支えるということです。
施設での看取りは、施設だけでも、医療機関だけでもできません。夜の現場にいる職員と、電話の先にいる医療者が、同じ順番で動けたときに成り立ちます。
最初の一言は、決めておいてください。
「予定していた経過です。いまから向かいます」
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事前にどれだけ説明を受けていても、夜中にたった一人で呼吸の停止に直面すれば、頭が真っ白になってしまうのが人間として当たり前ですよね。そんな極限状態の職員に対して、あれこれ説明をまくしたてるのではなく、質問で状況を確かめた上で「予定していた経過です。救急車は呼ばなくて大丈夫です」とまず告げてあげることの救いの大きさに、深く胸を突かれました。パニックの渦中にいる相手の足元へ、瞬時に確かな安心を手渡す第一声の重みを改めて実感します。